本質的課題に近づく心理コミュニケーション


2024/6/26更新 

 伴走支援においては課題設定支援が必要となります。経営者との対話の中ではストーリー性や企業の捉え方、さらに過去から現在に、未来から現在に、其々の時間軸に適する思考法を用いることで課題が浮き彫りされることがあります。また、信頼性が構築されていない場合、経営者の本音を聞き出せないことや支援者にありがちな思い込みなども発生します。

 ここでは経営者と支援者が対話を重ねる中で知らず知らずのうちに遭遇している障壁やその障壁を乗り越えて本質的課題に近づく心理コミュニケーションの一例を紹介いたします。

 

 課題設定型支援や伴走支援の事例については、中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21、或いは中小企業庁が運営する伴走支援プラットフォーム伴走支援プラットフォームの閲覧をお勧めいたします。

課題設定支援に取り組んだ背景について

 中小企業の伴走支援では『対話と傾聴』が重要視される中、支援者には『心理コミュニケーション』の実践が求められると感じております。ここでは中小企業で現場作業員と役員を兼務していた実体験に基づく事例を紹介いたします。具体的には、役員として現場改善に取り組む中、課題に気付くまで約1年半、課題の解決に約半年、合計で約2年を要した新規事業開発の事例となります。

支援環境について

 当企業の現場では目前の課題が山積しているものの、経営者(従業員を含む)は早期に解決しなくてはならない喫緊の課題や重要課題の存在を認識しておりません。また、現場改善担当は、業務経験がなかったため事業に関して知見や経験が乏しい状況です。 一方、全国の商工会議所や商工会等の支援機関には専門家派遣制度が導入されております。派遣者は専門的な知見や経験を活かして経営診断や現場調査等により課題設定をおこない、短期間で課題解決が期待されます。

 事例と専門家派遣の支援環境を対人関係を進展させる心理学モデルのひとつである『ジョハリの窓』を用いて説明すると、事例は④領域に対し専門家派遣は①或いは③領域に整理されます。当事例は、経営者及び支援者の双方が課題を認識していないため、特に、潜在的な課題を認識するのに労力と時間を要することが容易に想像できるかと思います。 

(参考)ジョハリの窓はコチラ

 

 

本質的課題は現場にヒントがある

  当時は、現場における目前の課題解決に取組んでおり、本質的課題の設定や解決を目指していたわけではありません。ただ、日常作業におけるベテラン従業員の嘆き谷口さん、この仕事きついんよね。」がずっと気に掛かっておりました。実際に長時間作業なので相当に疲れます。約1年半が経過し、業務経験に加えて商習慣や法体系の理解が深まってきた頃にハッと気づきました。ジョハリの窓を用いて説明すると経験知不足のため1年半かかってやっと領域④から③に到達したことになります。(経験知の壁)認識した課題を経営陣に報告してするとともに課題解決の段階に進む予定でしたが、まだ壁が残されておりました。

 何十年も気付くことがなかった役員もいる中、入社してわずか1、2年の社員の提案を心理的に受け入れることができなかったのです。(受容の壁)私が相手の立場を敬意を払い、慎重に提案すればよかったことを当時は内省しました。(経営者の心理と行動を理解したコミュニケーション)

 

最後となる壁

 経営者に提案を受け入れ、ようやく課題が設定された後、課題解決の段階に進むと思われましたが最後にもう一つ壁が残っていました。(決断の壁)それは社長自らが課題に気付き、課題を設定したわけでもないので、なかなか次の課題解決の段階に気持ちが進まないことです。 その当時は経営者内の改革派と組んで一気に新規事業を立ち上げましたが、社長の陣頭指揮で事業を推進することができたら経営陣の一体感が生まれたのではないかと思っております。(経営者の心理と行動を理解したコミュニケーション)

本質的課題に近づく

 中小企業において経営者(従業員を含む)が気付いていない潜在的な課題の一例として、『ベテラン従業員の嘆き』の中にヒントがあったことを紹介いたしました。実際は様々なシーンに本質的課題のヒントが隠されているかと思います。また、経営診断や現場調査した結果、潜在的課題は存在しなかった事例も実際にありました。

 

(参考)課題設定支援における対話プロセスはコチラ