課題設定支援における対話プロセス


2024/05/29更新

  伴走支援においては課題設定支援が必要となります。経営者との対話の中ではストーリー性や企業の捉え方、さらに過去から現在に、未来から現在に、其々の時間軸に適する思考法を用いることで課題が浮き彫りされることがあります。また、信頼性が構築されていない場合、経営者の本音を聞き出せないことや支援者にありがちな思い込みなども発生します。

 ここでは心の課題にも触れながら課題設定支援における対話プロセスの実践例を紹介いたします。

 

 課題設定型支援や伴走支援の事例については、中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21、或いは中小企業庁が運営する伴走支援プラットフォームの閲覧をお勧めいたします。 

課題設定支援を始めるにはどのようなテーマで経営者と対話するのか

 私は経営者の会社人生と事業成長をテーマとして対話をするようにしております。支援目的は、経営者が今まで気付いていなかった課題に気付きを得ることにあります。そのために支援者は、経営者と会社の理解を深め、その理解のもとで課題を示唆することが経営者に気付きを促すことに繋がるのではないかと考えます。

どのようなストーリーを展開して対話を深めていくのか

 経営者と会社の軌跡を『事業』と『経営』の二軸で捉えて、現在から過去まで、現在から未来の順で振り返り、近未来の目指したい姿について対話を深めていくと支援が進めやすいと感じております。一例ですが、具体的には以下のように実践しております。

一枚のキャンパスとして見立てる

 

 事業と経営者の軌跡を頭の中では「一枚のキャンパス」として見立てて、キャンパスの中心を現在とします。

 具体的には、経営者の入社時、事業承継時或いはウィズコロナ期等における経営者の状況を横軸としてに、その時における会社の浮き沈み状況を縦軸として、経営者との対話と通じて一枚のキャンパスを描きながら理解を深めるようにしております。

 最初に過去を振り返り、経営者の入社時や事業承継時の状況から聞き取りを始めます。

 

 

経営者の過去との関わり

 

 経営者と支援者は、過去の経営者と事業の状況を振り返ります。特に、事業の転換点においてはその当時の状況を経営者から注意深く傾聴します。支援者の経験知や洞察から経営者に示唆質問をおこない、バックキャスティングにより当時の目指した姿と実際の状況とのギャップから経営者に気付きを促していくものです。

 

 バックキャスティングによる効果は、その当時の目指した姿と実際の状況との比較することで、目標よりも結果の方が予想以上にうまくやっている状況正のギャップ)、或いは結果の方が劣っている状況(負のギャップ)をことに気付くこととなります。特に、人生軸の転換点、事業の浮き沈みの激しかった局面では経営者の記憶に残っており、一枚のキャンパスには色濃く表れると思います。

経営者の未来との関わり

 

 支援者は傾聴を通して経営者から会社のミッション(使命)、事業のビジョン(近未来に目指す姿)の想いに触れます。

 経営者と対話を繰り返すことで過去から本当に目指したかった姿、今までの事業の変遷を踏まえた新たな目標等、近未来に目指したい姿を支援者は具体的な形に彫り上げる。このようにSASI近藤社長は仰っておられました。『経営者の過去との関わり』で気付きを得た負のギャップが乗り越えなけれならない課題であるかを考慮しながら、『近未来に目指したい姿』と新型コロナウイルスの影響による外部環境の変化やそれに伴うお客様の行動変容に影響を受けている現状とのギャップを新たな課題として経営者に気付きを促します。

 

 

経営者との対話プロセスの中で大事にしていることがあります。それは、経営者に対して『第三者として向き合う』ということです。

 

第三者として向き合う

  • 経営者をひとりの人間として受け止めること。
  • 経営者の人生を触れるということに畏怖の念をもって接する。
  • 事業の話を謙虚な姿勢で傾聴すること。

  これらの心掛けは、簡易型認知行動療法実践マニュアル(大野裕、田中克俊著)の接し方を参考にさせてもらいました。第三者として向き合うということは、支援者の過去の成功経験や成功事例などにとらわれず、自分の思い込みとなる「心のフィルター」を取り除いて支援者と接する。そうすることで今までに気付かなかった課題(本質的課題)に近づく有効な手段の一つであると思っております。

 本質的課題に近づくとは

 

 会社の本質的課題に近づくには、まずは会社の歩んできた姿(会社の歩み)を理解すること、つまり、経営者と支援者が経営者と会社の事業活動を振り返ることから始まるものではないかと思います。

 

 経営者を理解するために、経営者との対話において人間関係を深めると言われる『オウム返し』や『共感』等の技術だけではうまくいきません。対話を深める中で経営者は支援者がテクニックを使っていることに気づくことでしょう。経営者は人間通の方が多いので支援者が人格者であるかどうかはすぐに見抜れてしまいます。

 

 支援者は、経営者と会社の軌跡を『事業』と『経営者』の二軸で捉えて理解を深めることが肝要であります。経営者の立場で考えますと、支援者に支援を依頼したとはいえ、信頼関係が構築されていない状態では経営者自らの人生を第三者の支援者から触れられることはきっと受け入れがたいものでしょう。こうなると見かけ上は協力する態度を示すものの心の扉を閉じてしまうものです。心を閉じてしまうとその当時の経営者の状況や事業の状態を支援者に誤って伝えることになってしまいます。そうなってしまうと支援者は正のギャップ、負のギャップを正しく捉えることができなくなります。経営者も心のフィルターを取り除いて心を開いていただくことが必要です。

 

 事業については、日々、事業の経営のことを考えているので誰よりも自分が良く知っているという自負があると思います。同じように経営者自身のことは誰より理解していると思っておられると思います。しかし、実際は、経営者が気づいていない性格を支援者が知っていたりすることや経営者、支援者の双方が気づいていない性格があることがあります。

 

 支援者の経験と洞察から生まれた示唆によって経営者が今まで気づいていなかった課題に初めて気づくこと、支援者のの対話で双方が気づいていなかった課題を突然ひらめいたり、一旦豁然として貫通する状況が発生することが何度が起こりました。このようなプロセスが「本質的課題に気づく」といえるのではないかと思っております。具体的な本質的課題に気づきを促進するプロセスやそのプロセスにおける課題についてご関心のある方は下記を参照ください。

 

 (参考)本質的課題に近づく心理コミュニケーションはコチラ